小論文 放送・文芸系(テーマ4)
課題:「光」というテーマで文章を書きなさい
中学卒業を迎えた。私が所属している生物部の卒業パーティはすでにお開きになっていて、生物室に残っているのは私一人だった。部屋の照明は消え、室内を照らすのは夕暮れの赤焼けた光のみだ。
私は器具が収められた棚に近づく。棚の中には大小様々なビーカー、小動物のホルマリン漬け以外に、ビーカーの中で飼育しているベタがいる。今、丁度ベタが収められている位置に、夕焼けの斜光がかかっている。斜光は、レースのスカートを翻すように水中で揺れるベタの長い群青の鰭を、ひどく際立たせていて、その美しさを増させていた。
私がベタを選んだのも、この鰭の群青に惚れたからだった。それ以外のベタは考えられなくなった私は、すぐさまペットショップの店員を呼び部費で購入した。部員の中で、一番ベタに世話を尽くしたのも私だった。ベタの泳ぐ姿、佇む姿、怒って鰓を膨らませる姿。ベタの一挙一動が私の心を引きつけ、ずっと眺めていたかったから。おかげで、ベタは私のことを覚えた。私がビーカーに近づくと、ベタも近づいた。通じ合っている。それが嬉しかった。
棚にかかる斜光は、除除に細くなってゆく。空も藍色が混じりはじめた。
恐らく、ベタは私に特別なものを抱いてはいない。ベタにとって、私は餌をくれる人間でしかないのだから。これからは後輩が世話をして、一番世話をしている後輩に懐くのだろう。それでも、私はあなたが好きだった。
斜光が、最後の間際に輝いて、消えた。
私は荷物を掴むと、足早に生物室を出た。外靴に履き替え、外に出る。足早のまましばらく歩いて、足を止め、校舎のほうを振り返った。校舎の上を棚引く雲に、夕焼けの残光がほの赤く残っていた。
私は器具が収められた棚に近づく。棚の中には大小様々なビーカー、小動物のホルマリン漬け以外に、ビーカーの中で飼育しているベタがいる。今、丁度ベタが収められている位置に、夕焼けの斜光がかかっている。斜光は、レースのスカートを翻すように水中で揺れるベタの長い群青の鰭を、ひどく際立たせていて、その美しさを増させていた。
私がベタを選んだのも、この鰭の群青に惚れたからだった。それ以外のベタは考えられなくなった私は、すぐさまペットショップの店員を呼び部費で購入した。部員の中で、一番ベタに世話を尽くしたのも私だった。ベタの泳ぐ姿、佇む姿、怒って鰓を膨らませる姿。ベタの一挙一動が私の心を引きつけ、ずっと眺めていたかったから。おかげで、ベタは私のことを覚えた。私がビーカーに近づくと、ベタも近づいた。通じ合っている。それが嬉しかった。
棚にかかる斜光は、除除に細くなってゆく。空も藍色が混じりはじめた。
恐らく、ベタは私に特別なものを抱いてはいない。ベタにとって、私は餌をくれる人間でしかないのだから。これからは後輩が世話をして、一番世話をしている後輩に懐くのだろう。それでも、私はあなたが好きだった。
斜光が、最後の間際に輝いて、消えた。
私は荷物を掴むと、足早に生物室を出た。外靴に履き替え、外に出る。足早のまましばらく歩いて、足を止め、校舎のほうを振り返った。校舎の上を棚引く雲に、夕焼けの残光がほの赤く残っていた。
これは、日本大学芸術学部 文芸学科推薦入試で合格した受験生の作品です。教室での個別授業ではなく、メールのやり取りによる小論文の講評・添削の授業だけを受講し、見事合格を勝ち取りました。
芸術系の文章表現では、受験生自身の感覚や感性をいかに魅力的なものとして文章表現できるかが、高い評価につながっていきます。
この文章は卒業式の1シーンを印象的に構成したものですが、テーマである「光」の扱い方がとても印象的で、読み手の心の中に鮮烈な印象と心地よい読後感を残すことができる秀作です。
例えばファッションのトータルコーディネートでも「無難」にまとめることは簡単です。でも、相手に鮮烈な印象を与えるようにまとめるのはとても難しいのです。
芸術系の文章表現は、「無難」な表現ではなく、この文章のように鮮烈で印象的な表現力を持っていることが望ましいです。長期的な視野を持って受験対策していけば、それを身につけることは可能なのです。