
美術の本質とビジネス
近代以降のアートの本質は、「個性」「独自性」に見出されてきました。これは、人類の歴史の中の近代以降の「自我の確立」とともに大きく増幅され、20世紀の100年間で揺るがなく確立されたものです。
人ひとりが何を作るのか。自分だけにしかできないことは、なんなのか。自らを掘り下げ、それを表現として外に出していくことで、どれだけの価値を生み出すことができるのか......そういったことを、アートの世界では常に大切にしてきました。
そして、21世紀に入ってから、ビジネスの潮流に、それと似たような動きが生まれてきました。
数十年前は、とにかく有名になる、大きくなる、ということがビジネスで成功するための重要な要素でした。つまらない商品であっても、大々的に広告を打ち、一般社会に対する知名度を上げるだけで、一定の効果が見込まれたのです。
しかし、現代は違います。インターネットが普及して情報社会となり、誰もが豊富な情報源にアクセスできる可能性がある時代では、とにかく有名になる、大きくなる、というだけではビジネスは立ち行かなくなってきているのです。
特に2010年代に入り、その傾向は顕著になってきました。私がこの記事を書いているのは2015年5月ですが、象徴的なニュースが多く報道されています。
大企業マクドナルドやワタミの経営不振。パナソニックや東芝の粉飾決算疑惑。ソニーのメーカー離脱化......。しかしその一方で、グーグルが隆盛を誇り、フェイスブックの成功譚は映画化されています。
グーグルもフェイスブックも、最初はとても小さなグループ、あるいは個人から出発したビジネスでした。それが、世界全体に普及するまでに大きくなっているのです。
21世紀、成功しているビジネスの特徴は何か。それは、商品やサービスが他にない「個性」「独自性」を獲得している、ということなのです。他に選択肢がなく、それが優れているから、みんなそれを選ぶ。ただ、それだけなのです。
これはまさに、近代以降のアートの本質と同じなのです。他に選択肢がない「個性」「独自性」を追求し、徹底的に掘り下げ、ブラッシュアップしてそれを表現する(世に問う)。
だからアートの世界を学ぶことは、生まれかけている現代のビジネスの潮流を先取りしてきた分野のノウハウを学ぶことにもなってくるのです。