当塾より武蔵野美術大学 基礎デザイン学科の推薦入試で合格した受験生が制作したプレゼンテーション資料(一部)です。ペン画による丁寧で緻密な作業と「和」のデザインに対する深い理解力で、見事合格を勝ち取りました。
制作者のコメント
デジタル表現の特徴は、複製可能性にある。同じ端末、ソフトウェア、液晶、方法を用いれば同じ結果が得られること、また、オリジナルの質を落とさずに容易にコピーができるというこの特性故に、デジタル作業によって作られた作品はそれ単体で存在に価値をもつことは無い。データが複製され、拡散されることによって初めて影響力を生み出す。そもそもデータは情報の伝達こそが最たる目的であり、作成された文字や画像はそれがもつ情報データを可視化したものでしかない。伝達できない状況、極端な話、世界に人間が一人しかいない状況下では、デジタルデータは何の意味も持たないのである。
対してアナログによる表現においては、作品のもつ唯一性こそが価値をもつ。アナログ作品は例えそれが絵画であっても、厚みや凹凸などを含む三次元の形をもっているため、実物を目の前にして様々な方向から眺め、時に触ったり匂いを嗅いだりしながら鑑賞することに意味がある。写真なりプリントなりで複製しようとしたところで、オリジナルが持つ色味や質感は伝えられない。作者が作品を自分の手元にとどめておいたとしても作品の存在自体が価値として世間に認識されることもあるのはこの複製の不可性故である。つまり、アナログで作られた作品はそれ単体の存在に価値があり、完全な複製は出来ない上に、完全に複製することに価値もないのである。
デジタル・アナログを複製可能性を基準に切り分け、デジタル表現は複製されることによって価値を増し、アナログ表現は唯一であることによって価値を生むと説くとして、現在の社会に求められているのはどちらかという問題に突き当たる。
日本では長らく美術館などでの写真撮影を禁止してきたが、近頃の若手アーティストなどは個展やイベントブースなどで写メの撮影を禁じることなく、むしろSNSなどで拡散されることを望む人が多いように思う。彼らはアナログ作品の複製の無価値さをよく認識していると言えよう。写真撮影によってデジタルデータ化された作品は多くの人の目に触れることで宣伝という伝達効果の威力を発する。つまり、デジタルとアナログを適材適所に使い分けることが現代に最も合った方法であると私は思う。
私が制作するイベントにおいても、視覚的な伝達を優先する部分にはデジタルで、逆に体感として世界観を感じて貰いたい部分ではアナログでの制作を心掛けている。ヤンデレ少女からのラブレターという設定で出てくる資料に、デジタル作業による均一なフォントが使われていたら、手にした人は世界観への没入感を一気に失うことは間違いないのである。