甘い考えの恐ろしさ
「先生、試験受けてたらさ、周りに、全然書けてない人たちいたんだよ。原稿用紙の3分の1も埋められていない人たちが何人もいたんだよ。あれじゃ、受からないよね...」
これは、ある生徒が、志望校合格の報告にきた時に、私に伝えてきた言葉です。
近年の美大受験の様子、そして弊害
近年、美大受験の方式が様々に増えています。いわゆる「実技」が試験科目になく、英語・国語・小論文のみで受験できる学科が、たくさん出てきているのです。
このことが理由となり、一般大学との併願で受験しやすい大学や学科が非常に多くなってきています。実際、私の担当する受験生の中でも、一般大学との併願組は、年々増加の傾向にあります。
それ自体は、良いことだと思います。自分の将来性の選択肢が増えた、ということを意味しているのですから。
ところが、それに比例して、「直前になってちょこっと対策すれば、なんとかなるだろう」という、美大受験を非常に甘く考えてしまう受験生が増えているのも、事実なのです。
「美大」に行く、ということ
しかし、美大というのは、非常に特殊な存在です。
普段から絵を描いている、とか、絵が好き、という人たちは、世の中にたくさんいます。しかし、美大に入学しようとする、ということは、いわば「プロとして美術をやっていこうとする姿勢を求められる」ということになるのです。
「プロ」というのは、非常に重い言葉です。
例えば、美大を卒業して、ある会社のデザイナーになったとします。そして、ある製品のデザインを担当することになったとしましょう。そして、そのデザインが採用され、その製品が発売されたとします。
デザインの良さが主な理由となって、売れた場合は、そのデザイナーはプロとしての仕事を立派に果たしたことになります。しかし、もし、それが売れなかったら、どうでしょう?
もし、自分のデザインした製品が、自分のデザインが理由で、売れなかったとしたら?
がっかりする、だけでは許されない。それが、プロなのです。
美大へ行く=美術のプロと見なされる!
もし製品が売れなかったら。その製品の開発に関わった会社の従業員全てに迷惑をかけることになるのです。その会社の従業員の給料が、減ってしまうかもしれません。あるいは、従業員を解雇しなければならなくなるまでに、損害が生じてしまうかもしれません。最悪の場合は、会社自体が倒産してしまうかもしれないのです。
プロ、というのは、自分自身に対してだけではなく、常に様々な人々に対して、責任を背負いながら、自分のやるべきことをこなす人のことを指します。そして、美大に入学する、ということは、美術という分野に関して、プロになることを目指す、ということを意味するのです。
ですから、入試において美術大学では、実技試験や学科試験、小論文試験を課すことによって、「その受験生が、プロになることを目指すための努力を行い、それに相応しい実力を持っているか」を判断しようとします。
それが、美大入試なのです。
ですから、たとえそれがどんな入試形式であっても、決して甘くみてはいけません。しっかりと合格するための努力を行い、「プロを目指すための実力をつけようとしてきた」ことを、入試でアピールできるように、受験生には、しっかりと対策をしていって欲しいのです。
それこそが、合格する確率を飛躍的に上げる、一番有効なやり方なのです。